月別アーカイブ: 2月 2019
201.親知らずの移植!歯周病の歯を救え!
今回は親知らずの移植治療についてです。
※患者さんの許可を得てアップしています。
⑧が親しらずです。この⑧のせいで⑦が歯周病に罹患し、12mmの歯周ポケットができてしまいました。その結果、⑦の奥側の骨(歯槽骨)は吸収しています。
その原因は親知らずの生え方によります。親知らずが斜めに生えてしまったせいで、⑦の奥側にプラークが溜まって歯周炎を引き起こしてしまっているのです。
この場合、⑧を抜歯しても⑦の奥側の骨は吸収したままになり、⑦も⑧も共倒れになることが予想されました。
そこで、⑦を抜歯して⑧(親知らず)を移植する計画にしました。
移植直後の写真です。
移植後2年以上経過した写真です。
赤の矢印部分に骨が再生していることが確認できます。
なぜ骨が吸収してしまった部分に骨が再生するのでしょうか。それは、移植した親知らずの周りに厚さ30ミクロンの薄い歯根膜という組織があります。それが下写真です。赤くなっている部分が歯根膜です。ここに「歯根膜細胞」があります。歯根膜細胞は骨芽細胞という細胞に分化して、周囲に骨を再生させるのです。
この歯根膜があるからこそ失われた骨が再生するのです。
下は模式図です。
今回も親知らずの移植ですから保険診療で行いました。親知らずを抜く前に、ご相談下さい!大事な親知らずかもしれません。
日本歯周病学会 歯周病専門医
日本補綴歯科学会 専門医
渡辺歯科医院
200.歯茎の移植の解説(難しい内容!)
難しい内容です。
「動かない歯茎(角化歯肉)」VS「動く歯茎(歯槽粘膜)」
歯の周囲には「動かない歯茎(角化歯肉)」の存在が歯周組織の健康維持のために有益と考えられています。
前回紹介した遊離歯肉移植術は、「動かない歯茎(角化歯肉)」を「動く歯茎(歯槽粘膜)」へ移植し、「動く歯茎(歯槽粘膜)」を「動かない歯茎(角化歯肉)」に変えてしまう治療です。
下図は「動かない歯茎(角化歯肉)」の模式図です。結合組織に「コラーゲン線維」があるから遺伝的に上皮は「角化」します。コラーゲン線維があることで「動かない歯茎」ができる上に、感染や外的刺激に強い「角化上皮」ができます。
それでは、①動かない歯茎(角化歯肉)の上皮―結合組織を一体にした組織を「動く歯茎」に移植した場合と(下図の上)、②動かない歯茎(角化歯肉)の上皮のみを「動く歯茎」に移植した場合(下図の下)では一体どうなるのか?
①の場合は、移植されたことで動く歯茎は動かない歯茎に変化しますが、②の場合は、動く歯茎は動く歯茎のままになり変化は見られません。このことで上皮が角化するか、角化しないかは、「上皮下の結合組織」が決めていることになるのです。
組織学的にはこのような解説になります。
下写真のように動く歯茎が動かない歯茎に変化しているのは、組織学的には上記の説明になるわけです。
日本歯周病学会 歯周病専門医
日本補綴歯科学会 専門医
渡辺歯科医院
199.歯茎の移植
今回は「動く歯茎(歯槽粘膜)」しかない部分に「動かない歯茎(角化歯肉)」を移植したケースです。
術前写真は金属冠の周りに「動く歯茎」しかないため、患者さん自身によるブラッシングが困難であったため、「動かない歯茎」を口蓋から移植しています。
これにより歯の周囲の歯茎は動かなくなり、ブラッシングが容易になります。
以前紹介した内容を下記に説明します。
「動かない歯茎」と「動く歯茎」についてのお話です。「動かない歯茎」のことを「付着歯肉」といいます。
歯の周囲には「動かない歯茎」が必要最低限あった方が、歯周組織は安定しやすいことが多いと私は考えています。
左下写真をヨードで染色すると右下写真になります。
色が淡い部分と濃い部分に分けられます。
淡い部分が角化歯肉、濃い部分が歯槽粘膜といいます。
それぞれの特徴は、角化歯肉は上皮部分に角質層を有し、歯槽粘膜は上皮部分に角質層がありません。
上皮下の結合組織(上皮の下にある土台となる組織)は、角化歯肉はコラーゲン線維を有した緻密な結合組織、歯槽粘膜は弾性線維を有した疎性結合組織になります。簡単にいえば、角化歯肉は表層が硬く動かない、歯槽粘膜は表層が硬くなく動くという特徴があります。
現在角化歯肉の有無による影響について見解が分かれており、必要または不必要で様々な諸説があります。
1972年に発表されたLang and Löeの論文では、2mmの角化歯肉(そのうち1ミリの付着歯肉)が存在すれば、歯周組織の80%は健康が維持されたと報告しました。
The relationship between the width of keratinized gingiva and gingival health.
J Periodontol. 1972 Oct;43(10):623-7.
角化歯肉(付着歯肉)が無くても歯周組織の健康が維持される場合もありますが、角化歯肉が必要最低限あった方が有利な場面も多いのです。
こんな論文もあります。
James E. Kennedyらが発表した論文です。遊離歯肉移植術を行ったグループと行わなかったグループで、6年後に歯周組織の状態を評価しています。メインテナンスにきちんと患者さんが来られる場合は、どちらも問題はなかったが、メインテナンスに来られなくなったグループでは遊離歯肉移植術を行わなかったグループで有意に歯肉退縮(歯茎の痩せ)が見られたと報告しています。
A longitudinal evaluation of varying widths of attached gingiva
J Clin Periodontol. 1985 Sep;12(8):667-75.
角化歯肉は「無いよりはあったほうが安心」といえるかもしれません。いつも考えることですが、今は良くても高齢になると歯間ブラシや歯ブラシによるブラッシングも困難になります。出来るだけ有利な状況を早いうちに作れるものであれば作った方がメインテナンスも行いやすいし、トラブルが起きた時の対応も簡単に済みます。
歯茎の移植は保険診療で行えます。
歯茎のトラブルがあればご相談ください。
日本歯周病学会 歯周病専門医
日本補綴歯科学会 専門医
渡辺歯科医院